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サイレントエモーショナルサマー
第25章 viaggio Ⅰ

「志保さん、早めに引越ししましょうよ。もうあのマンション危ないですよ」
「それは…検討しております」
「あと、帰ったら病院行きましょう。原因は志保さんだけじゃないかもしれないし、ちゃんと調べましょう」

なんのことを言われているのか分からなかった。ん?と小首を傾げると藤くんは呆れた息を吐いて、空いた手で私の腹部をそっと撫でる。

「相手の男に原因あったかもしれないでしょ」

確かに、私の記憶が正しければ避妊をせずに何度もセックスをしたのは晶だけだ。その可能性は全くもって考えたことがなかった。

「まあ、もしそっちだとしたら俺としてはざまーみろですね。志保さんに酷いことした罰ですよ」
「……まだそうと決まった訳じゃないけどね」
「それはそうですけど、今後はちゃんと自分の身体大事にして下さい」
「重々承知しました」

いいこ、と頬にキスをくれるが、やっぱり物足りない。起き上がって、藤くんに覆い被さると彼は驚いた顔になる。頬を撫で、首筋を撫でる。わざと顎にキスをして、頬や目尻と口付けていく。

彼の身体の上に跨って、腰を押し付けると藤くんの頬に紅が差す。にやりと笑って唇を狙った。藤くんは逃げようとしたけれど逃がさない。

下唇を噛んで、彼の肩や二の腕を撫でながら抵抗する藤くんの口の中に舌をいれた。彼の舌も珍しく私から逃げようとするがそれも許さない。絡め取って彼がしたのを思い出しながら唾液を口に流し込むとごくりと喉を鳴らし、それを飲み込む。

「…大事にしてくださいって言ったでしょ」
「藤くんは大事にしてくれるでしょ」
「しますよ。するに決まってるじゃないですか」
「ね、1回だけ。お願い」
「…くっ…ほんと、志保さんってずるい人」

藤くんの唇をぺろりと舐めて、唇の端にキスをする。Tシャツの襟元を強引に引いて私がつけたキスマークを撫でた。

彼に言わせるとコンドームの着用は男の嗜みなのだという。男はみな、つけるかつけないかのところでせめぎ合っているらしい。

となると私は適当にほいほい相手を捕まえておきながらなんだかんだとその嗜みを重んじるちゃんとした人間とばかりセックスをしていたのだろう。
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