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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
藤くんは備え付けの浴衣をさっとまとって和室の座卓の前で胡坐をかいた。私は寝間着にしようと持ってきたTシャツと柔らかいハーフパンツを纏って、座卓を挟んで向かいに座る。
「昨日の話ですけど、本当に重くとらえないでくださいね。俺は志保さんが唯一無二の人だって分かって欲しかっただけですから」
「……うん」
「あの頃、確かにしんどかったけど、あれがあったから俺はあなたに出会えた。俺はもう大丈夫です。あなたの幸せが俺の幸せ。だから、志保さんが俺以外の人を選んでもそれが志保さんの幸せならそれでいいです」
にこりと笑ってテレビを点ける。これじゃ彼の家に居る時と同じだ。藤くんは抱えていたものを私に話したからなのか、それとも3日ぶりに精を吐き出したからなのか随分とすっきりした顔つきである。ふんふん、とご機嫌に緑茶を淹れてくれる横顔を見ていると、本当に心の底から彼が生きていてくれて良かったと思った。
「今日、どうします?また特急乗って島出て観光でもいいですし、島の中もちょっとは観光できますよ」
彼の言葉で、そうか、今、私たちは島に居るのかと思い出す。特急に乗ってきた所為か自分たちが人口が100人に満たない有人島にきていることを忘れていた。20代男性が一応は『好きな人』との旅行で選ぶにしては中々渋めなチョイスだ。
「……藤くん、なんでここ選んだの?」
唐突に気になって藤くんの淹れてくれた緑茶に口をつけながら問う。藤くんはよくぞ聞いてくれましたと言いたげな顔になって口を開いた。
「志保さん、人が多いところは苦手って言ってたでしょ。だから多少観光客いてもお参りするようなところは静かだろうしいいかなって思って。あと、志保さんの尻軽が早く治るようにお願いしようかと。参拝だけじゃ1日で終わるし、のんびりするなら島だろ的な」
「藤くん、多少気になるところはあれど君のチョイスは素晴らしいです」
「じゃあ、ご褒美のキスください」
満面の笑みで腕を広げるから座卓を回り込んで胡坐をかいた藤くんの上に乗っかった。首に手を回し、頬に口付け、目尻にもキス。じっと美しいアンバーを見つめてから唇へのキス。