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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
ツケと言うやつは回ってき始めたらとことん回りまわってくるようだ。さっと藤くんの身体の影に隠れたものの私が一瞬足を止める原因になった人物はにたりと笑ってこちらを見ているようである。
「よお、志保」
声かけんなよ。スルーしてくれよ。そんな思いで藤くんの服をぎゅっと掴み、彼の背中に顔を押し付ける。
「……志保さん、この方は?」
「地獄に落ちるべき男だね」
「ほう。俺が落としましょうか」
「いや、藤くんは手汚したらダメだよ」
「なに訳わかんねえこと言ってんだよ」
地獄に落ちるべき男、晶の背後から軽快な足音が近づいてくる。嘘でしょ、あなたもですか。男二人でこの田舎の島にご旅行だなんてただならぬ仲じゃないですか。
私たちの傍までやってきた三井さんはぽかんと口を開いて現状に戸惑っているように見える。
「あれ…?晶さん、乗船券間に合いませんでした?」
「お前そっちかよ。その前に見ろよ、志保が居る」
短い会話から察するにこの二人も私たちが乗ろうとしているクルーズ船に乗るらしい。嫌だ、そんな地獄。海の上逃げ場のない中で、藤くんとこの二人が同じ船上に居ると言うのは私にとって結構な地獄絵図だ。
「志保、お前あの後どうなった?縄抜けでもしたか?それとも、」
「それ以上口を開くつもりなら海に突き落としてやる」
「それ結構まずいですよ晶さんカナヅチだから…てか、晶さんなにやったんですか?」
「おま…っ…余計なこと言うなよ。この女まじでやりかねねえ」
「志保さん、乗る前に縄でも買いに行きますか」
静かながらも険呑な空気が漂う。乗務員のおじさんが、乗らないのー、とのんびり声をかけてくれるが、最早それどころではない。晶がまたぺろっと余計なことを言ってしまう前に私はこいつを海に突き落とさなければならない。地獄に落とすよりは楽にできるだろう。