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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
6年前のことは過去にした。あの頃の晶のことはもう恨むつもりなどない。だが、こいつは3日前私に奇妙な薬を飲ませて犯罪行為に走った上、膣にバイブを挿入して放置してくださったくそ野郎である。あの日、こいつにさえ会わなければ浩志にあんなみっともない姿を見せずに済んだのに。
― そうだ、浩志…
一般的に男性に比べて女性の方が並列処理能力が高いとされている。私自身、仕事中の並列処理能力には自信があるが、対人関係になると途端に上手くいかなくなる。
私と藤くんが同時に夏季休暇を取得していることは今頃仕事中であろう浩志にも一目瞭然である。そして、彼は私と藤くんが身体の関係にあることも分かっている。私たちが一緒に過ごしていることも想定しているだろうか。それを思い浮かべた時、浩志はどんな気持ちになったのだろう。
藤くんのことも浩志のことも傷つけないという選択は私にはきっと出来ない。だが、私はどちらともきちんと向き合いたかった。
― どうしろっつーの
身体も頭もひとつしかない。そのひとつしかない頭で考えてさっさと結論を出すには彼らが私に与えてくれた愛情は深すぎる。もう一度、浩志と話をしたい。彼が具体的にどうしたいのかを聞きたかった。
「お客さんたち乗らないのーもう出るよー」
ゆるく響いたおじさんの声ではっと顔を上げる。彼は完全に私たち4人が仲間だと判断しているようだ。乗ります、すみません、と言った藤くんはじろりと厳しい視線を晶へやってから私の手を取った。
「俺から離れたらダメですよ」
「…うん」
「知ってます?殺人における完全犯罪って海の上が成功率高いらしいです」
「うん、それは待とうか。この船には目撃者が多すぎる」
にこりと笑ってとんでもないことを言ってくれる。足元気を付けてくださいね、と私に注意を促しながら彼の視線は私の背後に向いている。恐らく晶と三井さんがこちらへ近づいているのだろう。