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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
横文字の名前の付いた船は3階に当たる甲板のオープンデッキ席に加え、2階、1階と席数の多い豪華な造りだ。2階客席にはバーカウンターのような部分があり、カウンター内ではおばちゃんがにこにこと、いらっしゃい、と少ない客たちに声をかけている。
40分程度かけてゆっくりと湾内を巡り、途中で真珠モデル工場の見学ができるという。
「アルコールもあるみたいですよ。飲みます?甲板でとか」
「いいね。ちょっと飲みたいかも」
一度、2階部分のテーブル席についた。藤くんは小さなメニュー表を見ながら私に問い、結局ビールを半分ずつ飲もうと言うことになった。俺、買ってきますね、と彼は席を立とうとしたのだが、船内を散策して1階から上がってきた晶と三井さんの姿を確認するなり、私の手を取る。
目を離したくないのだろう。私も目だけでなく手も離して欲しくなかった。三井さんに見られるのはなんだか心苦しかったが、藤くんの指に自分の指を絡めた。
バーカウンターで購入したビールは大きなプラスチックのカップに並々と注がれていた。溢さないようにとカップに注意をやる藤くんの横顔が可愛い。そっとそっと階段を上り、甲板へと出る。
微かな潮の香りが鼻を擽る。案内所で見た男の子ふたりが楽しそうに駆け回っている姿を母親が微笑んで見つめている。父親は暑い甲板からは避難しているようだ。
オープンデッキの後方席に腰を落ち着け、まずは藤くんが一口ビールを飲んだ。この暑い中飲むビールの一口目はさぞかし美味いだろう。
「沁みますね、昼間のビール。隣に志保さんが居ると一段と美味いです」
「私もちょっと飲みたい」
「溢さないでくださいよ」
「子供じゃないんだから溢さないって」
はい、と渡されたカップを受け取って一口。やはり美味しい。一口目は格別だ。
「志保さんってなんでも飲めるんでしたっけ?部の飲み会とかだとカシオレじゃありませんでした?」
「ん…気張る飲み会の時はそうしてるだけ。でも、藤くんの前ならもうそんな必要ないし」
「……その台詞は結構にやけますね」
「だろうね。既ににやにやしてる」