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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
「……あつい」
「この暑さがいいんじゃないですか。汗でぴたっと肌がくっつく感じが」
おいで、に負けて藤くんの足の間に座り直した。ぎゅっと後ろから私を抱き締めて、いいこいいこ、と言うように髪や頬にキスをしてくる。
「ほら…すぐ触る…っ…ここ、だめだって…」
キスの嵐では飽き足らず、やっぱり藤くんの手は衣服越しに私の身体を弄る。耳たぶを食んで、左腕は私の腰に回って、右手は膝から太腿をじっとりと撫でていく。
「き、キッズが見てる…」
「見てないです。さっきお母さんと下に降りて行きましたよ。気付いてなかったんですか?」
「……」
「誰か上がってきますね。ほら、足音」
「…!ちょ、ふじくん!」
微かな足音。2階客席から甲板へと続く階段の踏板が立てる音だろう。身を捩って立ち上がろうとすると藤くんは左腕にぐっと力を入れた。右手は尻のあたりからスカートの中へ入り込んでくる。焦って声をあげようとするとキスで口を塞がれ、抗議の声は藤くんに貪られる。
「んん!んー!」
後頭部を押さえつけられている訳じゃないから離そうとすれば離せる。なのに絡みつく舌がそれを阻む。スカートの中へ入ってきた手がショーツの上からクリトリスの辺りに触れた。ぴくっと身体を震わせると藤くんの顔が離れていく。
「……なにやってんだお前」
荒く息を吸いながら声の方へ視線をやる。にやにやと笑った晶がハーフパンツのポケットに両手を突っ込んで数歩ほど先に立っている。晶の足音だったのか。まるで藤くんにはそれが誰のものであるか分かっていたみたいだった。
「へえ。いい顔してんじゃねえか」
そう言って、こちらへと距離を詰め、ポケットの中から手を出して私の顔へと伸ばしてくる。
「触るな」
低い、藤くんの声。あまり聞いたことない声だ。さっと過ぎったのは恐怖。
「この人に触れたら俺はあんたになにするか分かりませんよ」
「俺のもんに触るのにてめえの許可がいるのかよ。なにするって?海に突き落とすか?」
出来るもんならやってみろ、と晶は薄く笑う。藤くんを落ち着かせようと身じろいで藤くんの顔を見ると、笑顔ばかりだったそこに冷たさが滲んでいる。綺麗だと思っていた瞳が暗く澱んで見えた。恐い。これが、藤くんの憎悪なのか。