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サイレントエモーショナルサマー
第26章 viaggio Ⅱ
「……精々、依存し合っとけ」
意味深な捨て台詞を吐いて晶は踵を返した。重たい足音が遠くなり、聞こえなくなってから私は藤くんの膝を思い切り叩く。
「ばか!」
「いてて…すみません。でも、気持ち良かったでしょ」
「良かったよ、良かったけどさ…触るのナシって言ったのに!しかも船の上で!晶の前で!」
藤くんは、きぃっと噛みつく私をいなしながらいつの間にか下に落ちていた私の小さな鞄から慣れた様子でティッシュを取り出す。おう、随分冷静じゃないか。
「ばか。藤くんのばか。もう怒った」
「怒った顔もかわいいです」
「そういうのいいから。もう知らない」
「そんなこと言わないで。あ、アイス。アイス買いましょ。ね、」
「アイスひとつで私の機嫌が取れると思うなよ」
私を抱き締め直してキスをしてこようとしたから逃げた。ふん、と鼻を鳴らしもがいて立ち上がる。じとりと濡れたショーツの感触が心地悪い。パンツみくじで普通のレディースショーツは大吉の筈だったのだが、案外大凶なのかもしれない。もうずっと藤くんのボクサーを穿いていた方が良いのだろうか。
むっと頬を膨らませ、藤くんから距離を取る。彼はにこりと笑って座ったまま私を見ている。瞳には優しい色が戻っていた。
「俺は、焦ってます。だから邪魔なものは排除したい」
「なにに焦ってるの」
「あなたの幸せが俺の幸せとかかっこつけたけど、俺はあなたが欲しいです。中原さんの出方が分からない以上、あの人以外の敵なんかまともに相手にしてる暇ないんですよ」
私の問いに答えない声は独り言のように聞こえた。余韻も残さず消えていった声はきっと湾内に溶けていったのだ。
がたんと船が揺れる。気づけば途中で見学予定の真珠の加工場についたところだった。幼い男の子の声が下の方から聞こえてくる。