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サイレントエモーショナルサマー
第27章 dipendere
◇◆
― 好き。あなたのことが大好き。
誰?私が言ってるの?暗い闇の中、響いているのは私の声。相手は誰?手を伸ばして触れた先、『彼』の身体には熱がない。
顔もない。身体は指先から灰になってさらさらと宙を舞って消えていく。
待って。置いていかないで。私を、独りにしないで。好きだって言ったから?そんなこと言ったから消えてしまうの?
嫌だ。嫌だよ。でも、その言葉は口に出さなければ意味がない。
お願い、どうか。終わらないものをちょうだい。
「……さん!志保さん!」
「……っ…」
「うなされてましたよ。大丈夫ですか?」
「…藤くん?」
「そうですよ。また、恐い夢みましたか」
「夢…?ああ、夢か……」
なんて嫌な夢だ。頭部がなく、指先から灰になって消えていったあの『彼』はいったい誰だったのだろう。今でも上手く言えぬ言葉を私は誰に伝えていたのだろう。確実に分かるのは相手は晶や隼人ではないということだ。
「前に見た夢ですか?」
「…ううん、ちがう」
不安げに私の顔を覗き込んでいた藤くんの身体に縋りつく。まだ熱い。熱くて熱くて、焼けそうな身体。やはり私はセックスの最中に失神してそのまま眠ったのか。でもって、彼はやっぱり私をそのまま眠らせてくれたようだ。下半身には不快感がない。きっと後処理もきちんとしてくれたのだろう。
「……いま、何時?お腹すいた」
すりすりと彼の胸元に額を寄せて問う。6時ですね、とやや呆れた声が降ってきて、私もつい目を見開き顔を上げた。電気の消えた室内はカーテン越しの朝日によって薄らと明るい。