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サイレントエモーショナルサマー
第27章 dipendere
「……藤くん」
「はい?」
「日曜、用事ある?」
墓参りの日は誰にも会いたくなくなる。毎年そうだった。だが、今年はその日をひとりで過ごしたくなかった。
「ないですよ。今、俺の日常は志保さんを中心に回ってるので」
「あのさ、そしたら…」
「日曜はなにか予定があるんじゃないんですか?」
「うん…あの、休みの締め括りにしては明るい用事じゃないんだけど…その、両親の墓参りで…一緒に来てくれないかな」
「……」
「あ、ごめん。嫌だよね。お墓ってなんかちょっと恐いし。今のなし。大丈夫一人で行ってくるから、藤くん久しぶりにフットサルとかいってきて、」
気付けばアパートの外階段まで差し掛かっていた。足を止め、俯く。私の我侭だ。ひとりになりたくないからと彼を求めている。途端に足元からじわじわと澱んだ黒いものが這い上がってくる。
「俺が、一緒でいいんですか?」
「……ごめん、ひとりきりになりたくないの」
「行きますよ。どんな形であれあなたが求めてくれるなら俺はどこまでだって一緒に行きます。地獄だっていい」
顔を上げて、藤くんへと手を伸ばす。しゃらんと微かな音を立ててブレスレットが肌を滑った。涙の粒によく似ている。彼は伸ばした私の手を取ってからゆっくりと階段を上り始めた。私もそれに続く。
部屋に戻ると長い情事の後の気怠く淫靡な空気がまだ残っているみたいだった。藤くんは冷房を入れずに、窓を開いて外の空気を取り込んでいく。
ローテーブルにコンビニの袋を放り出して、ソファーに並んで座ってどちらともなく唇を寄せ合う。じわじわと私の足を絡め取ろうとしたなにかはさっと消えていった。あれは、不安かなにかだったのだろうか。
「大丈夫。ひとりにしません」
「……ありがとう」
抱き着けば、ちゃんと背中に腕を回してくれる。よしよし、と背を撫でて、髪を撫でて。頬へのキスも忘れない。
少し触れあってから、テレビを見ながら買って来た食事を取った。旅行鞄からお菓子を取り出してそれも食べ始めると、彼はお菓子の前にもっと食事を取れと言う。
旅の余韻から抜け出すように洗濯や掃除をする間も、私は藤くんの後をついて回った。彼は今日は甘えんぼですね、と笑って髪を撫でてくれた。