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サイレントエモーショナルサマー
第27章 dipendere
◇◆
どうやら彼は休暇中の荒療治は諦めたらしい。別の機会を狙っている気配はひしひしと感じるが、墓参りに向けた私の憂鬱を感じ取ったのか大人しくしている。
昨晩は流石に身体を重ねることなく、ただじゃれ合っていつの間にか眠った。今朝、目が覚めればやっぱり藤くんは私の髪を撫でてにこりと微笑んだ。
昨日、彼は私のことを甘えんぼだと言ったが、今日は彼の方がそんな状態だった。久しぶりにゆっくり本を読みたいから本屋に行ってきていいかと問えば、彼は俺も行きますと迷わず言った。手を繋いで本屋に行って、私が本を吟味する間もぴたりと張り付いて離れようとはしなかった。
シリーズものの新作と、今までは読んだことのなかった作家の面白そうなミステリー小説と、珍しく話題の泣ける恋愛ものの3冊を購入して、外でランチをしてから部屋に戻る。
藤くんに恋愛小説を先に読むように勧められたが、購入したものの冒頭の2行だけでお腹いっぱいになってしまいそっと閉じた。
ソファーに座ってシリーズの新作から読み始めた。藤くんはベッドでごろごろしながらフットサルかなにかの雑誌を読んだりスマホをいじったりしていたのだが、いつの間にか近くに来たかと思うと腕を引かれた。ラグの上に胡坐をかくとその足の上に私を座らせる。
後ろから抱き締められ、時折、うなじに口付けられる度にページを捲る指は止まってしまう。
「…集中出来ん」
「俺、さっきから一緒に読んでるつもりなんですけどこの警部補ってなんでこんな鋭いんですか?」
「これはシリーズの4作目で、鋭い理由は1巻に書いてあるよ」
読んでみる?と首をひねって彼の方を向くと、待ってましたとばかりに唇を捉えられる。くちゅくちゅと絡んだ舌が音を出し、背中がぞくりとすれば、持っていた文庫本はしおりを挿む間もなく手を離れ床を叩いた。
「んっ…藤くん、」
「本、読まないんですか?」
「邪魔したの藤くんでしょ」
「邪魔してるつもりないですよ。ただ、今日は俺、くっついてたいんです」
「いつもくっついてる」
「今日は、いつも以上に」
私が、ひとりになりたくないなどと弱気なことを言った所為だろうか。優しいなぁ。藤くんは本当に優しい。ぐっと背後の彼に体重を預ければ腰に回った腕に力が込められた。冷房の効いた室内。目を伏せれば幼い頃、唯一ほっと息をつける場所だった布団の中を思い出す。