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サイレントエモーショナルサマー
第27章 dipendere
◇◆
藤くんのアパートの最寄駅から1時間ほど電車に乗って移動するベッドタウンに先祖代々の墓がある。私はそんな墓があることを両親が亡くなるまで知らずに育った。
口数少ない私につられたのか電車に揺られながら藤くんも口数が少なかった。日曜の午前中の車内は家族連れやカップル、友達同士などの姿が多く静かながらもなんだか賑やかな雰囲気に包まれている。
私たちは言葉少なく、ドアの近くに立ちぼんやりと窓の外を流れる景色を見つめていた。時折、彼が私の手に触れると、しゃらんとブレスレットが微かな音を立てる。
電車を降りてから駅前の花屋で花を購入し、5分ほど歩いた。霊園は厳かな空気が漂い、しんと静まり返っている。風がたてる木々のざわめきを遠くに聞きながら私たちはひとつずつ水桶を持って奥へと進む。
「……心がね、見えないかなって思うんだ」
砂埃で汚れた墓石に水をかけながらぽつりと言った。毎年、両親の命日に墓参りを欠かさないのはそうしていれば共に過ごした日々に見えなかった彼らの心がいつか見えてくれたらとそんな思いがあったからだ。
死者は口をきかない。生きている頃だって私は彼らとどんな会話をしていたか覚えていなかった。残っているのは溜息を吐く顔と、自室の布団の中は涙が出そうになるほど落ち着いたということくらいだ。
「両親は学生結婚で、駆け落ちみたいな感じでね…親族同士も凄く仲が悪くて、つまはじきっていうの?疎遠だったんだよね。私、祖父と祖母に初めて会ったのが両親の葬式の時だったんだ」
「……」
「父が遺した連絡先を頼りに親戚に連絡したけど、大体どちら様ですか?そんな人知りませんって返ってくるんだよ。もうさ、がっかりだよね。あんたたち一体なにしたのって感じ。でも、父方の祖父母だけは葬式に来てくれて…墓にはいれてやるけど、今後私と付き合うつもりはないって言われたよ」
血が繋がっていながら、たった一度きりしか会わなかった祖父母は私にとって他人だった。
私は学生結婚というものに憧れていた。両親を慕っていたからではない。彼らが失敗したことを私ならやってやるぞという夢も希望もない考えからだった。