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サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia

「去年、津田さんに引き継がせなかったのになにか理由でも…?」
「いや、お前にもそろそろ社外出てもらわんとな。あと、前より出張増えると思うからよろしく」
「はあ…」
「なんだ。去年倉庫番嫌がってたろ。あ、あれか、お前倉庫でサボるの覚えたか」
「えっ…いやいや真面目にやってますよ。あの、はい、了解しました。じゃ今日から津田さん連れてこもります」

時々、藤くんとじゃれ合ってはいるが、仕事自体は真面目にやっている。そのじゃれ合いの味をしめたタイミングで倉庫番の任を解かれることになるとは想定外だ。

「夕方は津田に倉庫番引き継いで、明日から中原について日中、外回ってくれ」

俺からあいつに言っておくから、とちゃっかりせんべいを手に部長は自分のデスクへ向け去っていく。中原?中原って浩志のことだよね?なんてこった。いや、でも、浩志は仕事の時はちゃんと仕事モードになれる男だ。

まじかよ、と朝からげんなりしていると駅で別れた藤くんがフロアへ姿を見せる。女子社員たちが久しぶりに見る彼の姿に黄色い声をあげ、久しぶりー、焼けたねーなんて言っているのが聞こえた。忘れかけていたが流石のモテモテっぷりだ。

私が見ていることに気付くとそっと目線をこちらへやって小さく手を振る。少し、どきっとした。なにその、こっそり感。ちょっと辞めて欲しい。彼には私が倉庫番を外れるという残念なお知らせがあるのだが、言いづらくなるじゃないか。

お菓子ゾーンと名付けられた、皆が出張の土産やらを置いていく簡素な台にせんべいの箱を置いてデスクに戻ると浩志が出勤してきていた。こちらもどきっとする。ああ、どうしよう。挨拶しないのは不自然だろう。

「…お、はよう」
「おはよう。これ、ありがとな」
「…私からって分かったの?」
「……お前じゃなきゃこの絶妙なチョイスしないだろ」

言いながらどこか悲しそうに笑う。無理をさせているのだ。彼は私が望むなら自信はないが、努力をすると言ってくれたことを覚えているのだろう。

「あ、あのさ、浩志、」
「悪い。俺、まだ色々整理が、」
「……そ、そうだよね、ごめん」

もう少し話がしたいと言おうとすると、さっと顔を逸らされ、思わず私も俯いた。気まずすぎる。しゅんと息をついても会社には逃げ場などない。私のデスクは彼の隣だ。おずおずとなるべく音を立てないように席についてPCを立ち上げた。
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