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サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia

「………」
浩志はなにやら考えている様子だ。恐らく今日も私が藤くんの家に帰るというのを阻止したいのだろう。
そりゃ浩志からしたら一応は好きだと言った女が自分以外の男の家で寝泊まりしているというのは面白くないに決まっている。私は再三藤くんが言っていたにも関わらず、まさか浩志が私を異性として見ているとは思っていなかったので、この状況を想像したことなどなかった。
浩志はじゃあ自分の家に来るか、とはきっと言わない。加えて、今の時期に私が自宅に戻っても眠れないということを彼はよく分かっている。だからこそ、悩んでいる。
「俺はお前を藤の家に帰したくはない」
「…ですよね」
「でも、そこで俺の家に連れ込むのもフェアじゃないと思う」
やっぱり私は浩志の考えることは分かるんだな、とこっそり安堵する。
「……じゃ、じゃあ、会社の仮眠室かビジネスホテルにでも行くよ…家じゃなければ多分ひとりで眠れるだろうし…とりあえず今月を乗り切れば…」
「俺も泊まります」
「それじゃ意味ねえだろ」
「じゃあ、もし志保さんが眠れなかったらどうするんですか?心配じゃないんですか?」
「心配に決まってんだろ。心配は心配でもこいつをお前の家に帰すわけにはいかない」
「勝手すぎますよ。俺は別に志保さんに無理強いしてないですし、邪な気持ちもありますけど、ただ志保さんがちゃんと眠れるようにって思ってるだけです」
「だったらお前、手出さないって誓えるか」
「誓えません。既に散々出してます」
ぶふっと飲んだばかりのサングリアを吹き出す。せき込めば藤くんがテーブルの上の紙ナプキンを渡してくれた。
「……お前はそういうの興味ないっつーか気味悪がってると思ってたんだけど」
口元を拭う私に向かって浩志は言う。彼には三井さんとの未熟な恋についてと性欲に弾けていること以外は全て語っていた。浩志はきっと私が晶とのことがトラウマで恋もセックスも気味悪がっていると思っていたのだろう。

