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サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia

「もう、ぶっちゃけるけど実は結構その辺の欲が強めでございまして…」
「で、藤とヤって、他の男ともヤってんのか。まじかよ…呆れて言葉が出てこねえよ」
「さ、最近はほぼ藤くんだけだよ。ちょっと事故があったけど、」
「バカだな。お前、ほんっとにバカだ」
「……すみません」
「藤もバカだろ。お前、こいつのこと好きなんじゃないのかよ。普通は嫌がるだろ。他の男とセックスしてんだぞ」
「普通は嫌でしょうね。でも、俺は普通じゃないですし、俺が一番気に入らないのは志保さんが自分に気許してることに胡坐かいてた中原さんですよ。中原さん、自分のこと普通だって思うなら今のうちに手引いてくれません?」
火花が見える。舌を打った浩志は残り少ないビールを飲み干すとおかわりを頼んだ。ついでに私のサングリアも頼んでくれるが、藤くんのは無視だ。煙草を咥え、火を点けながらまた遠い目をする。悩んで、考えている顔だ。
「手は、引かない。俺だって、生半可な気持ちで都筑に好きだとか言った訳じゃない。傍で見守って、そうしていく内にもっと近くにって思うようになった。こいつはほっとくとなんでも頑張ろうとする。それにストップをかけて、休ませてやれるのは俺だけだと思ってる」
浩志の言葉が胸に響く。嬉しい。そうだ、浩志はいつだって私に、色々考えすぎるな、とか、少し休め、と声をかけてくれた。私が苛立っていれば、今日は焼き鳥行くか、などと笑って声をかけてくれた。容赦ない物言いの影に隠れた優しさに今更ながら気付いて泣き出しそうになる。
「俺はこの先も都筑を守っていきたい。都筑にとって寄りかかれる相手でありたい」
だから今すぐ俺を選べ、とは言わないところが浩志らしい。苦しそうながらも微笑んで私を見ている。その見慣れぬ表情を見つめながら私は今、自分に言える精一杯の言葉を伝えようと探り探り口を開いた。
「……私、自分でも情けないって思うけど、まだどうしたいのかよく分かんないんだ…やっとね、逃げるのやめて向き合いたいって思うようになったとこで…でも、」
付き合う、と言う選択が恐い。どちらも失いたくない。どちらも傷つけたくないなんて虫が良すぎることは充分すぎるほどに分かっている。それでも、まだ、私は選ぶことが出来ない。

