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サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia

「いいよ、まだ選ばなくて。お前が向き合おうって、恋愛してみようって気になっただけで充分だ」
「そうですよ。ま、そこに至るには俺の努力の甲斐があったと思いますけどね」
「黙れ、藤。とりあえず選ぶのはもう少し後でもいい。けど、今日どこに帰るかは今、決めろ。藤の家は許さない」
「俺の家でいいじゃないですか。志保さん俺の家だとぐっすりですよ。寝顔もかわいいです」
「俺の家でも大人しく寝てたっつーの。あ、お前、あれだ、あの唯一の友達居ただろ」

チカのことだ。しばし悩んでふたりの前でスマホを取り出す。チカ、ごめん、巻き込みます。そんな思いで電話をかけると3コールで繋がった。電話をするに至った経緯を話せば、チカは大爆笑して今から行くから待ってろ、と電話を切った。

30分も経たない内にチカは店に来てくれた。店員に案内され席まで来ると、しげしげと浩志と藤くんを見ている。

「いつもこのポンコツがお世話になってます。志保の唯一の友達です」

にこりと微笑んだ顔はどっからどう見ても余所行きのお顔である。私の隣に座ると、赤ワインを注文して、この構図合コンみたいね、と笑う。

「あの…えっとお電話でもお伝えしました通りかくかくしかじかで…宿無しになりそうでして…」
「物凄く面白いから暫く引き取ってあげる」

チカがにんまり笑って言うと、藤くんは面白くなさそうな顔をして、浩志は上手く事が運んだとほっとしたような顔になる。

「で、私からひとつ提案があるんだけど」

運ばれてきた赤ワインで口を湿らせ、人差し指を立てながらチカが一言。なんだか嫌な予感。首を傾げて彼女を見れば、にこっと笑って私の髪に触れる。視線を藤くんと浩志に向けるとグラスを置いて一呼吸。

「平日はこの子がふわふわしないように私が目を光らせます。でも、週末は監視してられないのでふたりに任せます。夜はうちに帰してくれていいけど、日中は面倒見てください」
「監視って…私は犯罪者かなにかですか」
「……私が見てなくてあんた欲求抑えられるの?」
「………」
「お前、そこは抑えられるって言えよ」
「………言ったら嘘になる」
「抑えなくたっていいですよ。ほら、やっぱり志保さんは俺のとこ帰ってきた方がいいですって」

チカの提案は中々荒っぽい。彼女は私の現状をどうにかする為にこの機会は逃すまいとしているようである。
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