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サイレントエモーショナルサマー
第28章 malinconia
「今だけ。あと、1時間だけ、中原さんのこと忘れてください」
「……うん」
「ふたりだけの秘密にしましょう」
そっと、啄むキスをして藤くんは私の身体を抱き上げる。首に腕を回してしがみついた。藤くんのいい匂いが鼻腔を擽る。お日様の匂い。ほっと安らぐ、藤くんの匂い。
身体に馴染んだベッドに下ろされる。私の頬に触れて、志保さん、と甘ったるく私を呼ぶ。今生の別れではないのに、もうこれが最後だと言わんばかりの顔をしている。
「…藤くん、あのね、私、死ぬ訳じゃないし…明日会社行けば会えるし、土曜日もあるよ」
「俺は明日からいつ志保さんに触ればいいんですか?土曜までなんて長すぎます」
「今、触れて。土曜まで我慢できるくらい触って」
震えたキス。唇から頬へ、それから耳の付け根と耳たぶ。首筋はかぷりと噛んで、彼の手は性急に服の中へ滑り込んでくる。服をたくし上げ、ブラジャーを取る時間すら惜しいのか強引にカップをずらすと乳房に口付ける。
「付けて、いいですか」
「見えないとこね」
「俺にもあとで付けて」
「ん。分かった」
ごめんね、藤くん。あなたは私にたくさん愛情をくれて、あなたが居たから私は浩志の愛情を知ってしまった。きっともう、私は藤くんのことが好きだ。いや、好きだなんて言葉では足りない。でも、彼と同じくらい浩志のことも想っている。
ちゃんとするよ、ちゃんと考える。だから、今だけ、あと1時間、あなたに甘えることを許してね。
目を伏せると藤くんの唇が触れていた乳房に、ちり、と痛みが走った。その痛みが走った場所を舌が這う。乳房を這った舌は乳首を狙って、つん、と突いた。わずかに身体が震えると笑った藤くんの吐息がかかる。
「…タクシー代出すんでもう2時間に延長してもらえないですかね」
「カラオケじゃないんだから」
「でも、時間足りないです。もっと志保さんに触れてたい。抱き締めて、キスして、ずっと、繋がってたい」
あと、猫も、と弱く口にする。最早彼の中では荒療治よりも猫プレイの方が優先事項らしい。わかった、今度買いに行こうね、と髪を撫でてやるとくしゃりと笑う。幼い顔になった。これは、可愛い。身体を起こしてぎゅうと抱き着く。