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サイレントエモーショナルサマー
第29章 accelerazione

藤くんの頬へ手を添えると彼は私の服の中へ入れていた手をそこへ重ねた。もう一度、彼の唇が近づいてくる。そっと、そっと、探るように触れて、下唇を食む。きゅんと下腹部が疼いて彼を求めていた。

「ほら、志保さんもセックスしたいって顔してる」
「そりゃしたいよ」
「淫乱ですもんね」
「藤くんだって変態でしょ」
「男はみんなそうですよ」

藤くんの親指が私の下唇をなぞった。抵抗せず小さく口を開けるとその指はじりじりと口内へ入ってくる。会社に居ることなんか忘れて彼の親指に舌を絡ませた。ぎゅ、と舌を押さえつけられ、下腹部は疼きを増す。もっと、キスがしたい。セックスもしたい。

「ね、志保さん、中原さんじゃ満足させてくれないかもしれないですよ。俺にしましょ。ね、」
「ずるい男だなぁ、君は」
「俺はあなたを手に入れる為ならなんだってしますよ。正攻法に拘るのは中原さんの勝手です。俺には俺の攻め方がある」

私の口から親指を抜いて、藤くんは甘い誘惑を投げてくる。ああ、今すぐ縋りつきたい。彼らへの気持ちを自覚したところで私の『病気』はまだ治っていないのかもしれない。

「なんなら中原さんの前でセックスします?ああ、でも、あのかわいい姿は中原さんに見せたくないな…」
「はいはい、ちょっと落ち着いて」

晶の前では私を溶かしてイかせたくせに浩志にはその姿を見せたくないらしい。浩志に既に全裸どころかもっと悲惨な姿を見られていると知ったら藤くんは砂になるどころでは済まなそうだ。これは絶対言わないぞと胸に決め、ひっそりと頷く。

藤くんは再びキスをしてこようとしたが、遠くから聞こえてくる足音と話し声に気付くと、ほんの一瞬の触れるだけのキスをしてさっと背中を向けた。

私はぽんとその背中に触れてからお手洗いへと向かう。違和感への対策を済ませて出てみると流石に給湯室から藤くんの姿は消えていた。
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