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サイレントエモーショナルサマー
第4章 日曜日は苦みを少し

立て続けに2本目の煙草を咥えながらダイニングテーブルの荷物を振り返る。近所のスーパーのビニール袋と駅前のリカーショップの紙袋。
「ああ、忘れてた。ご飯作って飲もうと思ってたんだった」
「やった。チカのごはん大好き」
「今日の志保は使えなさそうだから座ってな。キッチン借りる」
勢いよく腰を叩かれうっかり喘ぐところだった。恨み目をくれてやって荷物を回収しキッチンに消えていく後姿を見送る。
「昨日さー、婚活パーティーに行ってきたのよ」
水を出す音の後、包丁の音を響かせながらチカの声が飛んでくる。ちゃんと過去の恋愛を乗り越えて、将来を共に歩むパートナーを探していることは勿論知っていた。
「どうだった?いい人いた?」
「素敵だなーって思う人はいたけど、なんかこういう出会い方したくなかったなとも思ってジレンマ」
「もっと自然に出会いたかった的な?」
「そう。友人の紹介とかそういうのが良かった」
「……紹介できる人いなくてごめんね」
「端から期待してない」
ぴしゃりと言われ閉口する。ですよね、そうでしょうとも。チカの職場は女性が多いと言っていたから私のような奴に頼むより同僚を頼った方が賢い。
がたがたと調理器具をひっぱり出す音がする。今日はどんな料理が出てくるのだろう。楽しみだな。パスタが良いな。
「一応いいなって思った人と連絡先交換して帰ってきたんだけどさ、一晩経ったらなんか冷めちゃって」
「……ほう」
「何度かやり取りしてたんだけどこれが何になるのかと思ったらもやもやしてきてさ。そしたらあんたの顔が浮かんだの」
「何になるのかって…それはあれじゃない?恋的な?」
「あんたが言う?」
「確かにー。ま、でもさ、私に言えるのはなんでそんなに頑張って結婚したいかねってとこよ」
「女としてはごくありふれた感情だと思うけど。恋愛したくない、結婚したくないっていう志保の方が少数派」
「決めつけはよくないと思います」
微かにニンニクの香りが漂ってくる。得意のペペロンチーノだな、と思った。流石大親友。確信と共に短くなった煙草を灰皿に押し付け、すんすんと鼻を鳴らす。

