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サイレントエモーショナルサマー
第4章 日曜日は苦みを少し

「結婚とか恋愛とか頑張ってするものじゃなくない?」
「うわ、出た。恋愛したくないくせに恋に恋してんの!夢見すぎ」
常日頃思っていることを口にすると、今時女子高生だってそんなお花畑なこと言わないよ、と毒付きながらダイニングテーブルにサラダを置いた。ぱたぱたと足早にキッチンに戻っていく。
「もう出来るよ。こっちおいで」
「はーい」
ざあっと湯を捨てる音。仕上げにかかったフライパンを揺する音とちょこっと醤油を垂らした香ばしい匂い。チカお手製の和風ペペロンチーノは大好物。
「美味しそう。いただきます」
「はい、召し上がれ。サラダも食べなさい」
チカのように喋りながらちゃっちゃとサラダとパスタに加えて、カプレーゼまでを仕上げる技は私にはない。仕事が立て込めばお気に入りのミニ親子丼をデスクでかっ込んで夕飯を済ませるし、朝はパンとコーヒーだけで充分だ。
デスクで食事を取らない時は浩志とどこかへ食べに行くし、適当な相手とホテルにしけこむ日はなにも食べない。たまに真っ直ぐ帰宅しても適当なコンビニのサラダと酒を摂取したらさっさとシャワーを浴びて寝てしまう。
チカは昔から三食しっかり食事を取ることをモットーにしている。食が充実してこそ生活は健全になるが彼女の持論だ。
「美味しい!天才!いつでもお嫁に行けるよ」
「相手さえいればね!」
「ははは」
「誤魔化せてないっつの」
悩んでいるとき、苦しいときは温かいものを食べなさい、と彼女は言う。面倒だったら私が作りに行くから迷わず呼んでくれ、とも言ってくれた。私が空っぽになった時、チカは私の家に泊まり込んで代わる代わる様々な料理を作ってくれた。野菜たっぷりのポトフの味を思い出すと今でも泣き出しそうになるからチカはあの頃と同じレシピのポトフはもう封印したそうだ。

