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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
◇◆
「…なんで中原さんも一緒なんですか」
「え。飯どうするって言われたから藤くんとオムライスだよって言ったら、俺も行くって。ね?」
「ちょうどオムライスの気分だったんだよ」
会議や資料作り、各所への連絡などを済ませていく内に気づけば昼休憩の時間になっていた。財布を手に席を立った時、藤くんに言ったままのことがあったので正直に報告したのだが、藤くんは浩志の同席がお気に召さないらしい。まあ、そうだろう。
「意趣返しですか?」
「うるせえ。水に塩ぶち込むぞ」
金曜日のイタリアンとほぼ同じ配置なのも気に入らないのだろう。4名がけのテーブルで私の隣には浩志が座っている。浩志の向かいに座らされた藤くんの顔には給湯室を去る間際に見せたご機嫌な笑みの影すらもない。
よく、表情の変わる子だな、と思った。社内では幾らか幼く見えることの方が多いのに、外に出てみると急速に大人の男の顔になる。
「こら、辞めなさい」
テーブル中央の塩の瓶を掴んだ浩志の手を制す。なんだか、今日の浩志は少しばかり機嫌が悪いらしい。仕事の進捗が芳しくないのか、週末に読み耽る予定だと言っていたミステリー長編が面白くなかったのか。
仕事のことで機嫌が悪くなることはままあったが、その時とはなにやら様子が違う。それに今は未だ週明けの午前を過ごしたばかりだ。ということは後者だろうか。
無類のミステリー好きの彼は前にもずっと楽しみにしていた作品が面白くなかったとむくれていたことがあった。案外子供っぽいところがあるのだと興味深く思ったものだ。
「はいはい、それを置きなさい。あ、オムライスきたよ、冷めないうちに食べよ、ね」
「……それ、」