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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
塩の瓶を取り上げて、大げさに美味しそうだねと畳み掛ける私に浩志はむくれたままぽつりという。代名詞で促され、迷いなく傍にあったテーブル備え付けの小さなボトルを手渡す。
会社から徒歩5分、こじんまりとした洋食屋であるこの店はバターライスの上に、ふわふわ卵とデミグラスソースのオムライスがとにかく絶品。セットのサラダにかけるように置いてある3種類のドレッシングは店主のお手製という拘りっぷりである。生野菜を好んでは食べないという浩志もこの店の和風ドレッシングでならサラダを食べる。
「さんきゅ」
「志保さん、俺も」
「どれ?シーザー?胡麻?」
「……まあ、そうなりますよね」
「ん?なに?和風なら浩志だよ」
「色々言いたいことがありますけど、とりあえずシーザーください」
おかしな子だ。訝しみながらご要望通りシーザードレッシングを渡す。隣の浩志が満足そうにふんと笑った。なに?と問うが、その声は無視される。デザートにフルーツヨーグルトもしっかり食べてから店を出た。食後のコーヒーはコンビニで調達。
会社までの長くはない道を3人並んで歩く。不機嫌だった浩志はオムライスで機嫌が直ったのか表情の分かりにくい頬に僅かに笑みが乗っているように見えた。
会社に着き、それぞれ自分のデスクに戻った。藤くんのデスクは私と浩志の位置からは離れているから彼が自分の隣の席の社員となにか話している声までは聞こえてこない。