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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ

「その妙な笑顔気持ち悪いんだけど」

PCのロックを解除する横顔があまりに見慣れないものだったから言うと、私の方を振り向いてぽかんと口を開ける。

「……お前ってバカだよな」
「はい?」

ちょっと冷めたコーヒーをぐびぐびと喉を鳴らして飲みながら言われ、首を傾げる。コーヒーはそうやって飲むものじゃなかろうと思うが、それについては個人の好みの問題だ。特になにも言うまい。

2日前にも藤くんにバカだと言われたことを思い出す。これまでそう頻繁に言われたことのなかった言葉をこの数日でふたりに言われたのはなんだか納得がいかない。

「普段は無駄に察しが良いくせに変なとこで鈍い女」
「なにそれ。意味が分からない」
「言ったら面白くねーからもうなにも言わねえ」

飲み干したコーヒーのカップをゴミ箱に放り、もう話はおしまいとばかりのポーズ。こうなった浩志はもう業務に関すること以外ではほぼ口を開かない。意図は読めないが、私も仕事に戻ろうとしてなんとなしに藤くんの方を見ると彼はこちらをじっと見ていたみたいだった。
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