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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日
「今のがデートの約束じゃないならその食事、俺も一緒に行っていいですよね。ね、中原さん」
「都筑がいいって言ったらな」
浩志の顔にはどうでもいいから仕事をしろと書いてあるようだった。きらきらと輝いて見える色素の薄い瞳。見据えられると思わずごくりと喉が鳴る。ね、志保さん、と甘い声を出す。ああ、ずるい。
「わかったわかった、藤くんも一緒に行こう。だからちゃんと仕事して」
「了解です。じゃ、志保さんキスしてくれます?」
「しねーよ。調子に乗るな」
ウインクを飛ばしてくる彼の背をばしんと叩くと、つれないなぁと口を尖らせ少し離れた自分のデスクへと戻っていく。その後姿を見送って溜息を吐くと浩志がそっと笑った。
「愛されてんなぁ」
「…面白がってるだけだって。靡かないのが珍しいんだよ」
「どうだか。まあ、なんつうかお前がそうやってのらりくらりしてっからあいつ最近調子乗ってるよな」
「いい加減どうにかしたいんだけどね。なに言っても響かないっていうか」
「都筑に彼氏が出来れば諦めつくんじゃねえの」
「……それはかなり難しいね」
「……俺が悪かった」
今の会社に入って浩志と親しくするようになってから彼とは多くのことを語り合ってきた。彼を前にすると言葉がとてもスムーズに出てくるのだ。
気を張らなくてよい、楽でいられる相手。中学の頃からの付き合いであり、現在唯一の友人のチカ以外にそんな風に感じることなどないと思っていただけに自分に対して驚いた記憶が懐かしい。
「藤は気持ち悪くないのか?」
視線はPCの画面と手元の書類へ往復させながらぽつりと言う。私もPCへと視線をやりながらもゆっくりと瞬きを繰り返す。
いつだか浩志と飲んで居る時に、何故いい歳なのにお互いパートナーが居ないのかという話になった。その時、私はチカにしか話したことのなかったことを告白した。
申し訳ない話だが、私は男性の恋愛的な好意を感じるとその男性の存在自体が気味悪く感じてしまうのだ。ぞわりと背筋が冷たくなったが最期、ありとあらゆるフラグを圧し折って徹底的にその好意から逃げたくなってしまう。