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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
甘い声で呼びかけられて顔を上げる。綺麗な瞳が私を見ている。そういえば、いつだかはこの眼にドキッとしている内に壁際に追いやられ、尻を掴まれたのだった。
「…い、いっかいだけな、…ん、」
一度だけならと言いかけたのを遮られ、薄くて熱い唇が触れる。ちゅ、と唇の端に吸い付いて離れていこうとするそれが惜しくて思わず藤くんの手を掴んだ。ばさばさと音を立て持っていた資料が床に落ちる。
「1回だけじゃないんですか?」
「…もう1回だけ」
まるで毒だ。甘美な快感をくれる甘くて甘くて危険な毒。
私を小ばかにするように笑った顔はどうしようもなくセクシーで、もっと早くこの顔を見せてくれたら良かったのに、と歯がゆくなった。藤くんの吐息が鼻にかかる。ちゅ、ちゅ、と2度私の唇を啄んで彼は幾つか備品を持って倉庫から出ていった。抜け目がない。
完全に藤くんのペースだ。おかしい。
作業を終えて自分のデスクに戻ってからも気を抜くとふわふわと夢心地になる。その度に宙に浮いているような感覚を初めて私に覚えさせた人の顔が浮かんでは消えていく。そのまま消えてくれ、お願いだから。マウスを握る手に力が入った。