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サイレントエモーショナルサマー
第5章 カウント・ゼロ
「おい、眉間」
浩志の声と共に不意に横から手が伸びてくる。かさついた2本の指の腹が器用に私の眉間の皺を押し広げた。
「煮詰まってんのか?コーヒーでも飲んどけよ」
「あ、うん、」
「ついでに俺のも買ってきてくれ。Lで」
「…私を気遣うと見せかけて自分が飲みたいだけって解釈でいいかな」
「ご自由に」
ほら、と小銭を渡される。以前はフロア内にコーヒーサーバーが設置されていたのだが、グラスポットの部分を誰かが割ってしまってから立派なオブジェになってしまった。会社を挙げて適宜休憩を取るように推奨している為にこの時間はちらほら席を立つ者が出始める。いってくる、と声をかけ席を立った。
「都筑さん」
コーヒーを購入して会社に戻ろうとすると背後から声がする。振り返れば藤くんと同期入社の女の子がなんちゃらフラペチーノのカップを手に距離を詰めてくる。
「あ、おつかれさま。可愛いの飲んでるね」
どうやら藤くんと仲が良いらしいのだが、彼女は時々しつこく私に欲しいものを聞いてくる不思議な子で少し苦手だ。
「一口飲みます?美味しいですよ、新作です」
「気持ちだけ貰っとく。ありがと」