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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日
◇◆
ほんの少しの残業をこなし、3人揃って会社を出た頃には間もなく20時になろうかというところだった。
ぐったりと疲れ切った私を余所に藤くんはご機嫌な様子だ。にこにこと笑みの絶えない顔を睨み付けると私の鋭い視線に気づいた浩志が口を開く。
「藤、お前またなんかやったのか」
「え?俺、なんかしました?」
しただろう!抗議の声をあげたかったが街中で大声を出すのは憚られ、その声を飲み込む。伸びてくる藤くんの手から逃れつつ浩志の身体の影に隠れる。
「…やっぱり藤くんは置いて行こう」
「そんな!なんの為に残業したと思ってるんですか。あれだって、いつものスキンシップでしょ」
僅か一畳程の狭い倉庫で作業をしていた私の身体を壁に押し付け、キスを迫ったのがスキンシップで済むと思っているとは驚きだ。
キスを拒むと、じゃあ結婚しましょう、とほざいた挙句、尻を掴んだことを忘れたとは言わせない。
藤くんのそんな過剰な行為は愉快ではなかったが、日中に浩志に告げた通り不思議と気味の悪さは感じなかった。きっと彼は冴えない独り身女の私をからかっているだけだと思っているからだ。