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サイレントエモーショナルサマー
第7章 erosione
◇◆
私の場合、三大欲求がバランスよく満たされると怒りと言う感情が大人しくなる。
欲求不満な時の私は浩志曰く物凄く口汚い愚痴を吐くらしい。よく覚えていないので定かではないが口が悪くなる瞬間がままあることは自覚している。
性癖を満たすセックスでなければ性欲は満足してくれない。隼人が家を空けていた5月末から藤くんと初めてセックスをした6月の中頃までの2週間は月のものの襲来とそれに伴った一番欲求の高まる期間に満足のいくセックスが出来なかった為に怒りの沸点がかなり低かったように思う。
その頃に比べて、今の私はなんて心穏やかなのだろう。駅のホームで見知らぬ人にジュースをぶっかけられた挙句、ぼんやり突っ立っていたのが悪いだのなんだのと言われても怒鳴り返すこともなく、なるべく穏便にこの場から立ち去るべく頭を下げている。
― あの時だったら胸倉掴んでただろうな
歳はいくらも変わらなそうだが、どことなく浮世離れした空気のある男だった。脱色を繰り返した所為だろうかチリチリの髪にワックスでボリュームを付けて夏が近づき汗ばむ季節だというのに革ジャンを肩にひっかけている。いきがって眉を吊り上げているがフラットなパンプスを履いている私より背が低いからかあまり迫力がない。
― ああ、うるさい
スマホを見ながらジュースを片手に歩いていた相手と、改札に向かって前を向き歩いていた私とどちらに過失があるかと言えば殆どの人がこの男を指さすだろう。そう思いながらも革ジャンの下のTシャツが汚れたと大声を張り上げる男に、すみません、不注意でした、と再び頭を下げた。
「すみません、連れがなにか」