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サイレントエモーショナルサマー
第7章 erosione
「どうせあいつがゲームしながら歩いてて志保さんにぶつかったと思ったんですけどあってました?」
柔和な顔が戻っている。ほっと息を吐くと藤くんは鞄からハンカチを出して渡してくれる。
「……びっくりした。藤くん、別人みたいだった」
「そこですか?てかね、ああいう時はちゃんと怒らなきゃダメですよ」
「今、怒りは眠ってるんだよね」
「なに言ってるんですか」
変な人、と着ていた薄手のジャケットを脱ぐと私に羽織らせた。手を引かれ、歩き出す。
「14分の電車乗ったって連絡くれたのに中々来ないから様子見に行ったら絡まれてるとは思いもしませんでしたよ」
改札を抜け藤くんのアパートへ向かって歩く中、溜息と共に言う。私だってあそこまでねちねち絡まれるとは思わなかった。それに、藤くんがあんな風に怒るとも。
「助け舟は有難いけど、藤くんにあの啖呵はちょっと似合ってなかったね」
「1回言ってみたかったんですよね、俺の女って」
「私は未だ藤くんの女ではありません」
「なりますよ。志保さんは必ず俺のものになる」
「凄い自信」
鼻で笑うと藤くんは足を止め、行き交う人々の視線も憚らず私にキスをした。にっと笑って離れていく顔は会社の中で見せる無邪気な顔のように見えたのにどこか嫌な予感のする顔にも見えた。
藤くんは私の手料理を食べたいと言ったが、私の作る粥は臭いらしいと話したら手料理は諦めたようで近所のスーパーに寄って惣菜を買った。食事なんてどうでもいいと言う私にもう少し太れと口を尖らせる。