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サイレントエモーショナルサマー
第7章 erosione
間を置かず、ティッシュの箱を手に戻ってきた藤くんは泣き出しそうな顔で謝りながら私の背中にぶちまけた欲の残滓を拭きとった。
窮屈そうに狭い廊下に座り込んで起こした私の身体を抱き締める。キスをするでもなく骨が折れるんじゃないかと思う程の強い抱擁。髪を撫でる手が震えているように感じたのはきっと気のせいではない。
「痛かったですよね、本当にすみません」
「ううん、気持ち良かったよ」
「………変態ですね」
漸く目を合わせる。私を罵った顔は申し訳なさそうに歪んでいる。伸びをしてきゅっと結ばれた唇に口づける。
これが、独占欲というやつなのか?藤くんは私が浩志とふたりで飲みに行くことは咎めなかったし、セックスをするだけの間柄になったことを十分に理解していると思っていたのだが私の思い違いだったらしい。
「…今日は、帰るよ」
「え?」
「ごめん、私やっぱり間違ってた。もう辞めよう」
「なんでですか、嫌です」
私だって藤くんとセックスが出来なくなるのは嫌だ。でも、そこに彼に対する愛情はない。
「私は誰かに誘われることがあったら間違いなくセックスするよ。今の内に私から離れた方がいい。この先、藤くんを絶対傷つける」
今は殆ど藤くんの家に入り浸っているから隼人とも顔を合わせていないが、隼人に家に来いと言われれば確実に彼の家に行く。過去に関係を持った人に呼び出されても意気揚々出掛けていくだろう。