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第5章 井上 翔太
「笑った顔が、すごい可愛くて。事務さんなんですけど、仕事の精度も高いし、頼りになるし、いつも助けて貰ってて。いつか、告ろうって思ってたのに。告った時には既に遅くて、男が居たっていう。」

小鳥遊さんは無言で、真剣に聞いている。

「それで…?」

「2人は結婚しました。メデタシメデタシ、です。」

「…井上くんも…辛い思いしたんやね…」

「慰めて、くれますか…?」

俺は、小鳥遊さんの目をじっと見つめた。

「なんてね。冗談ですよ。」

すぐに引き下がる。
しょうもないことを言ってしまった、と、後悔した。
自嘲的な笑みを浮かべ、フイと横を向く。

「い、のうえ、くん…」

困ったような、心配そうな顔の小鳥遊さん。

お願いだから、そんな顔しないで。

無理強いなんかしないよ。
ホントは、このまま押し倒してしまいたい。
だけど、あの時の辻本さんがフラッシュバックのように蘇る。

「止めて!」

って泣いた辻本さん。
頭に血が上って、一瞬めちゃくちゃにしてしまいたい、と思った衝動。
だけど、本気で怯えた彼女の顔に、後悔と自己嫌悪しか残らなかった…あんな思いは、もう2度としたくない。
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