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第27章 幸村 順一
「幸村さぁ…嫁さんの誕生日って何あげてる?」

井上が話題を変えた。まぁ会社が近い分、社内の人間もたくさん利用する店で会社の愚痴ばっかりってのも憚られる話だしな。

「嫁の誕生日?」

「…ん〜。どうしてる?」

「何、森崎誕生日なん?」

森崎は結婚して、実際は井上千春になったワケだけど、同じ部署内に井上が何人もいるのはややこしい。だからかどうかは知らないが、社内では旧姓で通してる。し、俺も呼び慣れた名前を急に変えるのは苦手だ。

「んー。」

「いつよ。」

「来週。2月14日」

「バレンタインじゃん。チョコでもあげんの?」

「いや、だから!誕生日にチョコもねぇだろうよ。てか多分俺にくれるし。チョコの渡し合いもおかしいだろ。で、お前んトコどうしてんのって聞いてんの。」

定食の生姜焼きをパクつきながら、んー、と考えた。

「ウチは…外食かな」

「どこ行くん?」

「や、高いトコなんか行かないよ?子供連れだし。」

「子供連れかよ。」

「だって放っとくワケにいかんだろうよ…気遣わずに行けるのなんか回転寿司とかファミレスくらいだけどさ。」

「いや〜、誕生日にファミレスって虚しくない?そこは親に預けるとかなんかあんじゃねぇの?」

「…俺、ヤなんだ。事故った時のシチュエーションがソレだったから…」

「あっ…」

井上の箸からポロリとご飯が落ちる。
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