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第2章 高野 正一郎
翌日からは菊乃は家事にてんてこ舞いで。
夜も俺が寝間に上がって、大分してからよろよろと上がってくる。
抱こうと思えば抱けたけど、疲れてそうやし、まぁ急がんでもえぇか、と思った。

一週間ほど経ったある日、昼過ぎに、床屋の仕事が一区切りついて、休憩しとった時。

「おい、げんじろうよ、お前んトコの嫁、サカキの娘やろ?」

「あぁ。それがどうした。」

「実家の前で家に入れろて大騒ぎしとるで。」

「あぁ⁉︎ 何じゃそりゃ‼︎」

「知らんけど…実家に返したんか?」

「知らん‼︎」

俺は慌てて店を閉め、サカキの家に走った。
菊乃は家の前には居らず、勿論家にも帰ってない。どこ行ったんや、と思いながら、あちこち探し回った。

探しあぐねて苛々しながら、俺がよう行く神社前の用水路のとこまで来た時。蹲っとる後ろ姿が見えた。

………居った……俺は はぁ、と大きな溜息をついた。手間かけさせよってからに…

「こんなとこで何しよんや」

仔犬みたいにぴょこんと振り返った菊乃は、俺の顔を見ると明らかに落胆したようで、顔を曇らせ、そのまま背けた。
…誰が迎えに来ると思うとったんや…

「早よ帰って飯の支度せんか。風呂の水汲みは終わったんか」
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