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第28章 萩原 義隆 ー 過去編 ー
しょうもないプライドなんてかなぐり捨て、今はコレだけしか渡せない、そのかわり、ずっと一緒にいる、隆行のことも、今まで任せっきりですまなかった、そんな台詞を臆面もなく言える男なら、きっと彼女と出会った時だって、谷崎のお膳立てなんかなくても、彼女との交際に持ち込めたはずだ。

それが出来ない不器用な男に出来たのは、今まで通り稼いでいる体を装うことだけだった。
学生の頃から通ったバーで、マスターに事情を話してアルバイトをさせて貰った。
勿論ダブルワークは会社で禁止されていたから、それは内緒でやったことだが。会社は大阪で、バーは京都だったから、会社の人に見つかることもなく、私は数年アルバイトを続けた。

彼女が本当に望んでいるものが何なのか、考えもせずに…

仕事一辺倒で、家庭を一切顧みない夫に、彼女も愛想を尽かしているのか、帰っても会話もない。
作り置かれた食事は冷め切って、油が回って衣もグニャグニャになった揚げ物や、伸びたパスタは食べる気すらしない。
ただでさえ空腹のピークも通り過ぎ、寝る直前にとる食事は何かあっさりしたものがいいな、と思っているのに。

最近こってりした料理が多いな…隆行も大きくなってきて、こういうものを好むようになってきた、ということかな…
やっぱりほとんど家にいない夫より、一緒に過ごしている子供中心になる、よなぁ…

それでも、もう文句なんて言える立場じゃない…
桜子1人に、任せすぎた…

軽くかぶりを振り、心の中で詫びながら、伸びたカルボナーラをゴミ箱に捨てた。
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