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第30章 幕間…SS集…⑤
武井 祥悟 ーバレンタインー



仕上がったスーツを着て、出社する。
今日はバレンタインデーだ。

エレベーターの中で、戸田さんと一緒になる。
戸田さんは、爺さんの代からの功労者で、親父より2、3歳年上。
60歳で定年を迎えてから、顧問として非常勤で会社に来ている。
定年前の役職は専務だった。
つまり、俺が新卒でペーペーだった頃は専務だったってワケで。顧問になった今も、こうやって隣に立つのは緊張する。

ただ、本人はそんな威圧的なタイプじゃないし、どちらかといえば小柄で、人のいいオジサンて感じ。穏やかで、お洒落なロマンスグレーって言うのかな。
親父が顧問として残って欲しいと頼み込んだキレモノで、仕事はめちゃくちゃできる。けど、バリバリに見えない。
能ある鷹は爪を隠すって正にこのことだな、と思う。
戸田さんがふ、っと俺のスーツを見て。

「いい仕立てのスーツですね?」

と言ってきた。

「ありがとうございます。最近作ったんです。」

「そうですか…」

「戸田さんも、いつもオーダーメイドですよね?」

「私は背が低いから既製品が合わないだけですよ。」

「そんなことないでしょう。小柄な人なんていくらでもいますって。」

「そういえば、今日はバレンタインデーですね?」

「そうですねぇ…戸田さんもチョコレートお好きですか?」

「ほどほどに。まぁ、私なんぞは数もしれてますからなぁ…祥悟さんの方が大変でしょう?」
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