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第33章 市八
風呂と言っても、家の裏の別棟に酒樽のような湯桶が据えてあるだけで、湯自体は土間の竃で沸かし、運んで溜める形なので、湯を張るのも抜くのも一仕事の風呂だ。

その労力を考えれば、湯屋に行くのが手っ取り早い、と考える者が多い。
だが、市八の両親が湯屋に行くのを、市八は見たことがなかった。

母のサチは、顔に酷い火傷の跡がある。
子供の頃におった火傷のなのだそうだ。
それを人に見られるのを嫌い、湯屋にはいかないのだと思われた。
その為に湯を張るから、父も家で入ることにしているようだった。

必要以上に人と関わらぬ、その両親の生き方を、とやかく言うつもりはない。だが、妻のサヨの両親は、料理屋に萬屋、ふた親とも客商売で、顔が広い。

それに、母のるいに至っては、顔も身体も結構な痘痕があるにもかかわらず、隠しもせずに湯屋に行く。
人から奇異の目で見られても眉も動かさない。
快活な性格で、よく笑いよく喋る。その屈託のなさに、皆魅せられて、痘痕などないかのように接するのだ。
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