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第33章 市八
それに比べれば、サチの火傷の方が酷いのかも知れない。
痘痕は、所詮痘痕。
醜くはあれど恐ろしくはない。
だが、サチの火傷は。
右の半顔が焼け崩れ、固まっている。
若い頃から化物と呼ばれた、というその顔は、知らぬ者が見れば恐怖、畏怖の対象だ。

家の前で屈んで掃除をしていたサチに、旅の者が、水をくれと声を掛けるのを、幼い時分に見たことがある。

「はい、」

と振り返ったサチの顔を見た途端、その男は腰を抜かした。

「ヒィッ…お、お助けを…」

転けつまろびつ逃げて行く男に、サチは仕方ない、と溜息をついた。市八は腹が立って仕方がなかった。
何が助けろだ。何もしていないではないか!
だが、大人になった今、分かることもあった。
怖がるのは、知らぬ者だ。
近隣の民は、サチが己の容貌が気味の悪いものだと知っていて、髪で隠そうとしたり、いつも申し訳なさそうに肩身を縮めて引っ込み思案にしているから、憐れんで普通に接してくれる。
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