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第33章 市八
「大丈夫だって。俺にゃあお嬢さんとの縁談蹴って一緒ンなった恋女房がいるってぇのは皆んな知ってるんだ。まぁお嬢さんが奉公人に振られたなんておおっぴらに言える話でもないし公の事じゃアないが、人の口に戸は立たねぇってやつかな。店の人間は大方知ってるよ。」

「そうなの?」

「だから…心配すんな。俺にはお前しか居ねぇ。」

「じゃあ、信じてあげる。」

サヨは後ろを向くと、きぬを抱き上げて市八と己の間に寝かした。
信太郎も抱き寄せ隣に寝かせる。

市八は、この子らの為にもサヨを泣かすような事は絶対出来ねぇな、と苦笑した。サヨは誇らしげにニヤリと笑い、おやすみ、と呟いた。

ごろりと横になるも、目が冴えて眠れなかった。

「…なぁ、サヨ…」

「なぁに、市っちゃん」

「次の休みにさ…小石川の実家に帰ろうと思うんだ。」

「うん。」

「父ちゃんに聞きたいことがあってさ…サヨ、自分ちに帰るか?」

「どっちでもいいよ。どっちも行ったらいいんじゃないの?近いんだし。どっちも信ときぬの顔は見たいと思うし。」

「…そう、だな…」

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