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第33章 市八

盂蘭盆(うらぼん)の前に、奉公人の藪入りがあり、店の仕事に障りのないよう配分しながら順に休みを取らせる。
八尋は支店を任される立場だから、長い休みは取れない。
が、親に孫の顔を見せてやりたいと許しを得て、小石川の実家に帰ってきた。
まずは市八の家で八尋とサチの二人に信太郎ときぬを見せた。
きぬがサチの顔に驚いて泣いたので、サチはすぐに裏に引っ込んだ。代わりに八尋が二人の孫を抱き上げ、相手をしていた。
「ばぁちゃん」
信太郎が呼ぶのでサチが髪を下ろして傷を隠し、遠目になぁに、声を掛けると、八尋の着物を掴んだまま、「ばぁちゃん」と呼ぶ。
「信、爺ちゃんよ?」
サヨが驚いて嗜めると、
「違うよ。だってじいちゃんには白いおひげが生えてるもの。ねぇ、ばぁちゃん」
「おひげのない人もいるのよ。」
「そうなの?」
信太郎はきょとんとして八尋の顎をさする。
八尋は苦笑し、
「そうだねぇ。お髭があったほうがいいかい?なら次来るときには伸ばしておこうかね?」
と言った。
「髭なんかなくたって父ちゃんは父ちゃんだろ。」
言いながら、子供の頃から父が髭をあたっている姿も見たことがないな、と思う。
八尋は支店を任される立場だから、長い休みは取れない。
が、親に孫の顔を見せてやりたいと許しを得て、小石川の実家に帰ってきた。
まずは市八の家で八尋とサチの二人に信太郎ときぬを見せた。
きぬがサチの顔に驚いて泣いたので、サチはすぐに裏に引っ込んだ。代わりに八尋が二人の孫を抱き上げ、相手をしていた。
「ばぁちゃん」
信太郎が呼ぶのでサチが髪を下ろして傷を隠し、遠目になぁに、声を掛けると、八尋の着物を掴んだまま、「ばぁちゃん」と呼ぶ。
「信、爺ちゃんよ?」
サヨが驚いて嗜めると、
「違うよ。だってじいちゃんには白いおひげが生えてるもの。ねぇ、ばぁちゃん」
「おひげのない人もいるのよ。」
「そうなの?」
信太郎はきょとんとして八尋の顎をさする。
八尋は苦笑し、
「そうだねぇ。お髭があったほうがいいかい?なら次来るときには伸ばしておこうかね?」
と言った。
「髭なんかなくたって父ちゃんは父ちゃんだろ。」
言いながら、子供の頃から父が髭をあたっている姿も見たことがないな、と思う。

