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第33章 市八
三人だけになると、一気に静かになった。

「市八は?萬屋に行かなくてもよかったの?」

「…明日には顔出すよ。」

「…何かあったのかい?」

「…父ちゃんに、聞きたいことがあって…」

「何?」

「ん…」

言い淀んだ市八に、八尋は何か感づいたらしく、

「サチ。麦湯をもう一杯貰えるかな?」

と、サチを裏手の土間に行かせた。

「…母ちゃんが居ると話しにくいんだろう?帰ってくる前に話してしまいな。」

市八は、意を決して顔を上げた。

「俺…本当に父ちゃんの子なのか…?」

「…それは…どういう意味だい?」

「…どういうって…言葉の通りっていうか…」

「お前は、私が父親では不満なのか?」

「そうじゃない…! そうじゃないけど…俺…父ちゃんとちっとも似てない…それに…」

「それに?」

「…昔…鷺のおじさんが…俺の顔触って父ちゃんにそっくりだ、って言ったんだ…信は日に日に俺のガキの頃に似てくるし…やっぱ、親子って…似てるもんなんじゃねぇかって思えてきて…今更誰か別の人を父ちゃんて呼べって言われたって無理だよ。けど…父ちゃんとは、血が繋がってないんじゃねぇかなって、思えてきて…」
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