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第33章 市八

「血の繋がりだけが親子の縁、とは私は思わないけどね。養い親や養い子の間にだって親子の情はあるだろう。」

「…じゃ、やっぱり…」

「…お前には黙って居るつもりでいたんだけどね…まぁ、お前ももう大人だし。隠し立てする必要もないかな…ただ…どこまで話したものやら…唐突に聞かれるとちょっと…纏まらないもんだね…」

そこに、サチが麦湯を持ってくる。

「ありがとう。」

八尋は麦湯を一口飲み、ふと思い出したように口を開いた。

「市八は…芝居の陽炎を観たことがあるんだったな…？」

唐突に変わった話題に、市八は面食らう。が、サチが戻った為に話を変えてくれたのか、と調子を合わせることにした。

「あ？ あぁ…もう何年も前だけど…サヨが観たいって言うから何度か行ったよ。アレももう演目としちゃあ古いよな…」

「私たちは見たことがなくてね。どんな筋書きなんだい？」

市八は斜め上を睨みながら記憶を引っ張り出した。