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第33章 市八
「父ちゃんは…」

「私は…旅芸人の一座に生まれた…軽業師の子だよ。」

「旅芸人…」

「芝居小屋の役者だって、ご贔屓のタニマチとの色事はあるだろうけどね。旅芸人なんてもっと酷いもんだよ。一晩幾らで、休む間もない。私は…幼い頃から女のような顔立ちをしていたからね。初めて客をとったのは十の年だったかな…」

「十⁉︎」

「…そんなに驚くことでもない。稚児趣味なんて珍しくもない話だろ。」

「……」

「頭領と出会ったのは…私が十五の時…あの人は二十歳くらいだったか…私はさる豪商に買い取られ、男妾として座敷牢に囚われていた。牢から出られるのは日に二度。風呂の時と、主人の部屋に上がらされる時。そんな暮らしを三年ほどしていたよ…」

「そんな…」

そこに、サチが戻ってきた。

「市八、お風呂、湯張ったから夕餉の前に汗流したら?」

「え? あ、あぁ…」

「じゃあ、私も入ろうかな。市八。せなを流しておくれでないか?」

「あ、あぁ…いい、けど…」

「八尋? 一緒に入るの?」

「偶には親子水いらずで風呂も悪くないだろう?」

「八尋がいいなら…」

サチは驚いたようだった。
そういえば…父ちゃんと風呂に入った記憶がない…

丁稚奉公に入るまでは、家に居たのに…母ちゃんと入った覚えしかなかった。

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