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第33章 市八
「お前は一生慰みモノであれ。お前に男の証など要らぬ、そう言われたよ。タマがないとね、男らしい身体にならないんだそうだ。声も高い、力もない、髭も下の毛も生えないと来てる。こんな身体、湯屋でも見たことないだろう。願ったって、生えてくるものでもないから、もう諦めてはいるけどね、見世物になるのも嫌だから、湯屋には行かないんだよ。」

「父ちゃん…」

「男に生まれながら男にもなれず、妾として、ただ使われるモノとして一生を終えるはずだった私を、頭領が助け出してくれた。お前は人だと、自分の足で立って歩けと、手を引いてくれた。あの方と出会わなければ、私はあの座敷牢で朽ちていくだけだった…」

洗い場で湯を掛け、八尋の小さな背中を擦る。
思いもしなかった、過酷すぎるその半生を思うだけで、市八の目に涙が浮かぶ。

「頭領に助けられてから、十五年、鷺や兵衛は後から来たから、四人になってからは十年、だったかな。サチが加わったのはずっと後。頭領が亡くなる二年ほど前だ。サチは頭領の女だった。」
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