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第33章 市八
「頭領は…サチと所帯を持つつもりで、足を洗おうとしていたようだ…最後の一年程はかなり無茶な稼ぎ方をしていた。その途中…おそらく、解散を宣言する直前のヤマで、屋敷の人間に火縄で撃たれ、その傷が元で亡くなった。私達はなし崩し的に解散して、今に至る。」

「…墓は、どこに?」

「ない。焼いて川に流した。皆バラバラになったけど、私は、サチに懸想していたから、一緒に暮らして欲しいと言った。その後に、お前がお腹にいる事がわかった。こんな私が、人の親になれる。どれだけ嬉しかったことか…お前の事を、息子と思わなかった日は一日たりとてない。」

「…父ちゃん…」

「市八の名は、市九郎と八尋、私達二人から一文字ずつ取ったんだよ。」

「…そう、だったのか…」

「市八…一度だけ、八尋と、呼んでくれないか…」

「八尋…」

八尋の目に涙が溢れる。

「頭領!…頭領…頭領…ありがとう…御座います…」

振り向きざまに市八に抱きつき、胸に顔を埋めて泣き噦る八尋を、市八もまた涙を噛み締めて抱きしめた。

「父ちゃん…育ててくれて、ありがとう…俺の父ちゃんは、八尋、アンタだけだ…」

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