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第36章 間宮 涼香
「納豆も食べたいしね?」

「夏場しか食えないもん。炊きたての白飯に納豆。最高だよなぁ…」

言いながら龍沢さんは納豆をかき混ぜ、お茶椀に流し込んだ。

仕込みの時期は納豆菌が麹に悪さをするからと、蔵人だけでなく、家族も一切口にしない。

目に見えない菌が何処について入り込むかわからないのと、まぁ食べられない人の前で家族が平気で口にする、て言うのも目の毒だしね。
その代わり仕込みが終わって春先、杉玉を吊るす頃には納豆が解禁されて、やっと食べられるようになるから頻繁に食卓にのぼる。

食べられない時期があるからと、それ以外の時期に納豆に執着してしまうのも、一般の人には理解できない心理だろう。
蔵人の仕事は力仕事が多いから、パンよりお腹に貯まるご飯を好む人が多いことも。

「私はそんな中で育ったから、それが普通だし、私ほど龍沢さんのニーズに応えられる女は中々いないと思うけど?」

「…確かに…」

「ね?龍沢さんは、私と結婚するのがいちばん幸せだと思うの。」

龍沢さんはもぐもぐとご飯を咀嚼しながら考え。

「…思いっきり尻に敷かれそうだな…」

と呟いた。

「そんな事ないわよ。3歩下がって後ろから手綱を引きますから。」

ニヤリと笑うと、龍沢さんは目を丸くして弾けるように笑った。

「不束者ですが、宜しくお願いします。涼香様。」

龍沢さんは三つ指をついて頭を下げて見せ、顔を上げると、おかわり、とお茶碗を突き出した。


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