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第38章 桜
「で?折檻されても上がりたくねぇ座敷ってなどんななんだよ。」

「…堀川屋の、大旦那さん…」

「堀川屋?大旦那といや堀川 喜左衛門か…」

「知っていんすのか?」

「いや…まぁあれだけの大店だ。名前くらいは知れてるよ…で?何が嫌なんだ。」

「…旦那さんでなく、そのお方が連れて来るお客人が好かんのじゃ…どこかのお武家さまだそうなんじゃけんど…」

「…ふぅん…武家ねぇ…接待ってことか…叩きゃぁ埃の出そうな話だなぁ…」

「え?」

「いや、何でもねぇよ。ま、いくら女郎だって嫌なモンは嫌だよなぁ…けど、簡単に折檻なんか受け入れんな。座敷なんか銭が着物来て座ってると思え。殴られんで済む話があるならそっちを選べや。」

「おまはん…変わったお人じゃな…女郎にそんなこと言う男はおらん」

「そうか?…よっぽどの売れっ妓じゃなきゃ女郎の身体案じてくれるヤツなんかいねぇだろう。だったらてめえだけでもてめえの身体いとうてやれや。お前の身体はコレいっこっきゃねぇんだからよ…」

男の優しさに涙が滲んだ。
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