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第38章 桜
それから暫くして。

不思議な事に堀川屋の座敷がかかることがなくなり、店の者らの話から、何やら急に身代が傾いて、旦那方も廓遊びどころの話ではないらしい、というようなことを聞いた。
羽振りのいい大店だったのに、おかしなこともあるものと皆首を傾げていた。

そして、季節も変わった頃…張り見世に出た桜の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。

顔を振り上げて声を追った桜に、

「あぁ、やっと顔拝めたな…桜。来たぜ。」

ニヤリと口角を吊り上げた男の顔には、大きなかぎ裂きのような傷があった。

髪は総髪、着物も然程上物でもない。
見るからに半端者でしかなく、朋輩たちは名指しされた桜を憐むような目で見たが、それでもきちんと金を払って見世に登ろうという客だ。そして桜は、嫌な客ではないと確信していた。
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