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第38章 桜
「市九郎様!」

ふらりと現れた男に思わず声を上げる。

「なんとまぁ…マタギみたよな格好じゃの…」

いつもは総髪に結っていだ頭は、後ろで縛っただけのザンバラ髪。
無精髭に崩れた着物。動きやすいようにか短くたくして股引が覗いた足は町方の岡っ引きのようでもあるが、防寒用か、獣の革で作ったような羽織を羽織っていた。
市九郎が何を生業としているのか、その姿を見ても判然とはしないが…およそ、吉原に妓女を買いに来る風体ではなかった。

それでも。

焦がれ、待ち続けた男の登楼に、桜はいそいそと迎えに出て、手を引き、部屋に案内する。

部屋に入っても、市九郎は何か考え事をしているようで何も喋らない。桜は寂しいものを感じながら、帯を解き、襦袢姿で市九郎を抱きしめた。
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