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第38章 桜
何故そんなことを知りたがるのか…

考えられることはひとつ。
外に女ができて、その女が孕んだということ。市九郎は子供が好きでないのか、または出来ては困る何かがあるのか、理由は知らぬが、その女と所帯を持って暮らして行こうという感じでもないのだろう。

己と市九郎の関係は、あくまでこの吉原の中だけのもの。
外で市九郎が誰と何をしようが、誰と所帯を持とうが、桜には口を出す権利がない。

だが、だからこそ市九郎は此処に来ていたのではないのか。

此処で敵娼を抱くだけならば、女郎が孕んだとて、それは客には関せぬこと。だが外の女は。産ませるにしろ降ろさせるにしろ、何かしら悶着があるだろう。そういった諸々があるから、敢えて玄人を選んでいたのではないのか。
だとしたら…無責任もいいところだ。市九郎という男は、そんな男だったか?いや、本当に無責任な男なら。
外の女を孕ませたとて、知らぬ存ぜぬと嘯くのだろう。
それを悩んでいること自体が…市九郎の優しさ。
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