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第38章 桜
ならば、女を抱く、ということが、どういうことであるのかを教えてやろう。
男にとっては遊びに過ぎぬ、唯の快楽遊興に過ぎぬのかも知れぬ。
だが女にとっては。
日々身体の中を洗い流しながら、それでもどこかで孕むことを恐れる。月の物は毎度嫌になりながらも、遅れると不安になる。
子おろしにしくじって命を落とした朋輩もいた。
子をおろさず、産むときに死んだ者もいた。
無事に産んでも産後のひだちが良くなかったり、育てられなかったり、まちまちだ。
効くかどうかもわからぬ薬に便り、お稲荷様に願掛けし、病に怯え、それでも客は選べず買われる毎日。

日毎夜毎、男女の営みが繰り返されるこの廓で、この手の話はたんとある。
それも含んで、明るく楽しいところだけを客に見せる。
女郎は、芝居小屋の役者など裸足で逃げ出すほどの、大芝居を打っているのだ。己の命をかけて。
好き好んで踏み入った世界ではない。
それでも、此処で生きて行くしかない。
だから。

割り切れぬなら、外の女になど、軽々しく手を出すものじゃあない。この吉原の中でなら、わっちなら、極上の夢を魅せてあげられるから…
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