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第39章 新田　誠治の憂鬱

「犬猫にはないんです。だから、犬なんか同じケージの中で避妊せずに多頭飼いしてると親子も兄弟もなく、交配して妊娠しちゃう。概念がそもそもないから、そこにいるのは血の繋がった親子や兄弟、ではなくて、異性でしかない。で、そうやって生まれた子は先天的な疾患を持ってたりしやすいそうです。だから、ブリーダーなんかはケージ分けたり気を違うらしいですよ。近親交配なんておぞましい、ていう感覚はモラルです。でも、そうやって生まれる子は遺伝的に生き残れない可能性が高い、というのは生物学的に立証された事実。両方の面で、ない方がいいことです。それを避けるために、近しい異性には魅力を感じないように、刷り込まれる…誰が教えたわけでもないのに。なんか面白くないですか？」

「………」

「だから、娘さんの癇癪も、今はしんどいだろうけど、正常な成長で、致し方ないことなんですよ。ウチの姉貴も父親とは犬猿の仲、でした。でも大人になって、自分も親になって。オンナだから母親になる訳で、父親とはまた違うんでしょうけど、自分が子供の頃してもらったこと思い出したり、旦那と昔の父親を比べたり、そうやってわだかまりもなくなって、今じゃ実家に帰れば一番の呑み仲間じゃないですかね。ま、コレはウチの話ですけど…」

「お姉さんもイケる口なんだ。」

「ザルですねぇ。僕も呑む方ですけど。親父は僕と呑むより娘と呑む方が楽しいらしいです。」

二人で笑ってグラスを空ける。